修了者の声

福島県立医科大学臨床研究イノベーションセンターOBからのメッセージ

今回、福島県立医科大学臨床研究イノベーションセンター (以下 センター)フェローとしての任期を終えた後、それぞれの進路で活躍するOB 3名にセンター時代を振り返っていただきました。センターでの経験が彼らのキャリアの飛躍にどう寄与したかについて、お話ししていただきました。 (聞き手 吉岡)


矢嶋 宣幸 (やじま のぶゆき) 先生

矢嶋 宣幸 (やじま のぶゆき) 先生

2014年10月~2016年9月まで福島県立医科大学臨床研究イノベーションセンターフェローとして活躍。現在、昭和大学医学部内科学講座リウマチ 膠原病内科部門教授。福島県立医科大学 臨床研究イノベーションセンターの特任准教授も兼務する。

センターの仕事の中で、今も継続して続いていることはありますか?

矢嶋科研費※1の仕事が一つありますね。この環境でセンターの仲間同士でなければ出来なかったかなと。

きっかけは何だったんですか?(前所属先の)昭和大の頃からの構想ですか?

矢嶋いえ、(前所属先では、この構想は)無かったです。福島に来て、仲間たちとSLE(全身性エリテマトーデス)の疾患レジストリーを作ろうという話になりました。でも疾患のレジストリーだけでは研究費は獲得できないから、診療の質という切り口を見つけたんです。そこから仲間同士でシステマティックレビューをやりました。そこからの繋がりで、仲間の輪はすごく広がりました。

そうだったんですね。

矢嶋はい。あと、センターは健康長寿事業で山賀さん※2と一緒に仕事をするじゃないですか。その仕事の中で、レジストリーを作る時に、システム構築の方法だったり、待ち受けている困難だったり、役所との話をこうすべきとか、そういうことが見えたんですよね。つまり、お金、時間、手続きの見積もりの見通しがついたという。それは非常に大きかったです。

それは山賀さんのシステムエンジニアとしての企業勤務経験が大いに助けになったと。

矢嶋はい、そうですね。もちろん山賀さんの助言はすべてではなくあくまで一部ですが大いに助けになりました。残りは自分たちで試行錯誤しました。そういうところも得難い経験でしたね。

フェロー卒業後の研究活動はいかがでしょうか。獲得した研究資金や論文は。

矢嶋(科研費以外の)獲得研究資金は今の所ないですね。論文は今書いているものが3報、そのうち、そろそろ出そうなのが1報です。

全部筆頭著者ですか?

矢嶋全部筆頭著者ですね。それとは別に、後輩と一緒に作っているものが3報あります。

全部臨床研究ですよね?

矢嶋はい。臨床研究です。

それは素晴らしいですね。ちなみに科研費のSLEレジストリーの1報目はいかがですか。

矢嶋それが「そろそろ出そうな1報」です。今※3共著者回覧中です。

そうなんですね。わかりました。センターの活動で大きな幹が出来たということですね。これから論文がコンスタントに出そうな感じですか?

矢嶋そうですね。流れができると論文は沢山出ると思います。(センター長であり京都大学医療疫学教授の)福原先生の繋がりが大きかったのも一つあります。

佐田先生や宮脇さん※4もいますよね。

矢嶋はい。その2人の協力はかなり大きいですね。佐田先生と福原先生は、リウマチ学会のパイプを作ってくれたんですよ。そこで僕が学会で色々とやりたいことができるようになってきて。そこはありがたいですね。

いいですね。コネクションづくりはフィールドの開拓には必須ですもんね。

矢嶋はい。あと、福島の仲間との繋がりはすごく濃厚ですね。センターで一緒に活動した仲間たちで今お互いに招聘し合って講演し合ったりしています。センターでの活動は、仲間たちの輪を広げるツールになるかなと。

そうでしたか。センターでの活動が研究の幹を作り、仲間のネットワーク形成になったということですね。ありがとうございました。

  • ※1 矢嶋先生は2016年4月より、科研費 基盤(B) 電子診療情報と患者報告アウトカムを活用したSLE診療の質の評価システム開発と検証 を獲得している。
  • ※2 山賀 尚明さん…福島県立医科大学臨床研究イノベーションセンターに所属するシステムエンジニア。センターが執り行っている須賀川市健康長寿事業のデータベースに関して、実務上の中心として勤務する傍ら、企業勤務経験を生かしてセンターのカンファレンスでアドバイザーとしても活躍している。
  • ※3 インタビューを行ったのは2018年8月24日。
  • ※4 岡山大学リウマチ膠原病内科の佐田 憲映 准教授と宮脇 義亜 先生。

西脇 宏樹 (にしわき ひろき)先生

西脇 宏樹 (にしわき ひろき)先生

2014年4月~2017年3月まで福島県立医科大学臨床研究イノベーションセンターフェローとして活躍。現在、昭和大学藤が丘病院腎臓内科 助教として臨床と研究に邁進している。

イノベーションセンターフェローの活動を通して、特にキャリア面でどう活きましたでしょうか。

西脇まず研究に関して言うと、京大※5と、ハーバード大学のPPCR※6というプログラムを受講して、二通りの系統的な学習を行いました。臨床研究に必要なプラスアルファの知識は自分で学習しましたね。この2つが今の自分の研究の基本になっています。自分が研究者として自立しているかと言われたらまだまだなんですけど、おかげで科研費※7をとれて、自分で研究費をとれるところまではいけました。

素晴らしいですね。おめでとうございます。

西脇ありがとうございます。また、今の所属先では英語論文を長谷川先生※8のようなメンターがいる状態で出し続けることができている。これは良いことだと思うし、これからももっと研究を続けていきたいですね。研究が続けられる医療者になったのかなと思います。

素晴らしいですね。センターでの3年間の経験が、研究を続けられる医師へのキャリアにつながったと。フェローの任期中とフェローの任期後にそれぞれ何報ぐらい論文を出せましたか?

西脇センターの任期中にアクセプトになった論文は1報だけでした。任期が終わってアクセプトされたのは3-4報あります。1個、PPCRのチームで論文を1報発信できて、あれはセンターにいなければ絶対なかったと思います。この論文の扉を開いてくれたのは福島かなと思います。あとは、知人のネットワークを広げられたのはすごく良かったと思う。それは會津塾でもそうでした。

西脇さんは第1回から會津塾に携わっておられて、第3回、第4回は運営委員長として尽力されました。會津塾の他にセンターの活動で力を入れていたことはありますか?

西脇佐々木さん※9と二人で中心になって多施設共同研究を始めました。データシートの作り方一つから、時間かけて試行錯誤しながら運営もできて、ある一定の人たちから信頼を得られました。そもそもパートナーが佐々木さんっていう幸運もあったんだけど、この経験は財産だと思います。あとは新畑さん※10は厚労省にいて、今、学会のネフローゼ症候群のガイドラインを一緒に作っています。佐々木さんや新畑さんとのネットワークが続いているというのはセンターのフェローならではだし、その他にも研究に関連して声掛けいただくことも沢山ありますね。

いろんな人の出会いの場になったと。

西脇僕はいま同じ大学の組織にイノベーションセンターを経験した人が(長谷川先生、矢嶋先生と西脇先生自身で合計)3人います。長谷川先生のつながりで統計家を紹介してもらったり、つい最近あったのは大田えりか先生※11と共同でコクランのプロトコルを1報出せたりしたこと。イノベーションセンターで形成されたいまでもネットワークが成長しています。

特に西脇さんが強く感じているのは、ネットワークですよね

西脇後につながるネットワークの種まきと、足腰鍛えさせてもらったというのは良かったですね。

ありがとうございました。

  • ※5 京都大学臨床研究者養成コース Master of Clinical Research (MCR)のこと。本邦で唯一の臨床研究系統学習コース。イノベーションセンターフェローは有給で国内留学という形で受講が可能である。
  • ※6 Harvard TH Chan School of Public Healthが主宰するオンラインの臨床研究学習コース。Principles and Practice of Clinical Research (PPCR)。イノベーションセンターのフェローで集まって2015年に受講していた。
  • ※7 西脇先生は2018年4月より科研費 基盤(C) ネフローゼ症候群における運動制限と腎予後の関連 を獲得している。
  • ※8 長谷川 毅 先生・・・現 昭和大学藤が丘病院 腎臓内科 准教授。2014年~2016年まで福島県立医科大学臨床研究イノベーションセンター准教授(2016年は特任教授)として活躍された。
  • ※9 佐々木 彰 先生・・・現 株式会社麻生 飯塚病院 臨床研究対策室長 兼 腎臓内科。福島県立医科大学臨床研究イノベーションセンター前フェローとして活躍された。
  • ※10 新畑 覚也 先生・・・現 厚生労働省老健局老人保健課介護保険データ分析室。福島県立医科大学臨床研究イノベーションセンター前フェローとして活躍された。
  • ※11 大田 えりか 先生・・・現 聖路加国際大学教授。システマティックレビュー・メタアナリシスが専門。

飯田 英和 (いいだ ひでかず)先生

飯田 英和 (いいだ ひでかず)先生

2014年4月~2017年3月まで福島県立医科大学臨床研究イノベーションセンターフェローとして活躍。現在、千葉大学医学部附属病院次世代医療構想センター特任講師として臨床に携わる一方で総合内科・腎臓内科の臨床研究を継続している。

飯田さんが過ごしたセンターでの3年間は、今のキャリアにどう関わっていますでしょうか。

飯田センターでは診療支援と研究を半々でやっていました。福島に来る前は京大からので系統的な学習と研究指導を受けていて、その後福島に赴任して健康長寿事業に従事しました。京都での学習と福島での業務が自分の中では密接につながっていました。どういうことかというと、初めて(臨床)研究する身としてはただ研究するだけではなくて、事業を通して現場の大変さ、例えばデータを集めるところの大変さとか身をもって経験できました。これは大きな経験でした。あとは、やはり福島に仲間がいたのは心強かったです。同期のフェローは年齢も全然違いますけど、色々刺激をもらったし、勉強になったなと個人的に思います。

今は家庭医療クリニックの院長をされていますよね?研究はどのように継続されていますか?

飯田福島でやっていた健康長寿事業に関する研究を栗田先生※12と週に1回は面会し、研究指導を受けています。センターを卒業してなお、非常に恵まれた環境にいると思います。

終わって1年半で、センターでの活動が目に見える成果として出ましたでしょうか。

飯田京大とセンターを通して、臨床現場でも臨床疑問を大事にして解決するというプロセスを学びました。その心構えは明らかにセンター入職前後で違うし、臨床へのフィードバックはもちろん、臨床現場に際しての視点も変わりました。研究はまだまだこれからだけど、先日腹膜透析に関する研究を一つ形にした※13というのは自分の中では良かったかなと思います。

クリニックの院長ということで臨床だけでなく病院管理にも携わるでしょうし、お忙しいことと思います。今後は臨床研究を続けていきますか?

飯田今後も研究は続けていきたいと思います。いろいろな環境がありますけど、これで研究を辞めて普通の臨床を淡々とやるというのはもったいないというか申し訳ないという感じはします。臨床研究を通して患者さんを診るという1:1の関係で終わるところを、何かアウトプットとして出していける手法を得られたのかなと思います。

センターで良かったということはありますか?

飯田やっぱりデータベース、実地研修があったので、この実地での経験は福島で良かったと思うところですし、臨床も週に2日出来ていたので、バランスがちょうど良かったように思います。もちろんどちらかに集中するのも悪くはないとは思いますけどね。

ありがとうございました。

  • ※12 栗田 宣明 先生・・・現 福島県立医科大学臨床研究教育推進部 准教授。臨床研究イノベーションセンターを兼任され、大学全体の臨床研究教育のみならずフェローの研究指導も行っている。
  • ※13 Iida H, Kurita N, Fujimoto S, Kamijo Y, Ishibashi Y, Fukuma S, Fukuhara S.
    Association between keeping home records of catheter exit-site and incidence of peritoneal dialysis-related infections. International Urology and Nephrology. 2018; 50: 763-9.

今回インタビューを行った3人に共通していたのは、イノベーションセンターでの活動を通して、研究仲間の広大なネットワークの形成、持続的な研究マインド、そして論文の発信のみならず研究費の獲得のスキルを得ていたことでした。現在の活動は様々ですが、フェローで過ごした3年間が基盤になり、それぞれ非常に充実していたキャリアを歩んでいたことが伺えました。(吉岡 記)