臨床研究イノベーションセンター センター長よりご挨拶

福島県立医科大学 副学長(医師確保・健康長寿担当)
京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻医療疫学分野 教授 福原 俊一

今、世界は、日本は、そして福島は・・・

臨床研究イノベーションセンター センター長 福原 俊一
撮影:直江竜也

現在、世界中で、先進国、途上国を問わず、急速に高齢化が進んでいます。中でも日本は、世界のその最先端を切っています。このような超高齢社会にあっては、従来の高度先進医療を追求するモデルのみでは、立ちゆかないのは自明です。すなわち我々が有する資源は有限であるにも関わらず医療の高度化とともにコストが急増しており、日本の1億人、世界の70億人の健康を維持することは不可能です。何より、今後どれ程、医療が進んだとしても、寿命は数年しか延びません。生物学的限界に近づいているとも言えましょう。これからの我々の目標は、「寿命を延ばすこと」から、「寿命をいかに良く生きるか」、に大きくシフトして行きます。これが「健康長寿」の本質です。福島県はどうでしょう? 全国と同様あるいはそれ以上に急速に高齢化が進んでいることはもちろんのこと、これに加え、子供や中年層の不健康度も全国でトップクラスであることは、由々しき問題です。このままでは福島県民の健康長寿は達成できません。

臨床研究イノベーションセンター:医科大学の社会的責任を果たす拠点

この新しい時代には、新しいモデルや方略が求められています。それは、治療より予防、予防の中でも特に住民一人一人の行動の変容、そして地域力の強化、という新しいモデルなのです。また、健康長寿を達成するための事業をするだけでは不十分で、その事業の効果を絶え間なくチェックし、計画を改善することが必要です。しかも科学的に評価しなければなりません。これまでになかった新しい科学が必要とされているのです。それこそが本イノベーションセンターが行う研究なのです。

このような時代の大きな変化の中で、我々医学・医療に携わる一人一人、そして医科大学に課せられた課題は甚大です。医科大学は、これまでの主要なミッションであった「真理の探究」だけでなく、未来の医学や医療を担う人材の育成が求められています。しかも新しい時代には、新しい人材の育成が求められます。2013年に発足しました臨床研究イノベーションセンターは、福島の健康長寿達成という社会のニーズに応えるための有為な専門人材を育成します。

臨床研究フェローシップ:新しい時代に求められる新しい人材の育成拠点

当センターでは、「臨床研究フェローシップ」という制度を開始しました。これは、心と腕のある県外の若手医師に福島に来ていただき、県民医療の支援をしていただくと同時に、給与を払って充分な学習時間を確保し、未来の福島、日本の臨床研究を牽引するリーダーになっていただくことをめざしています。これまでの研究者育成は、基礎医学が中心で、無給の大学院生に授業料を払わせて学ばせる、臨床研究にいたっては学習機会さえなく診療の片手間にさせていました。これでは世界に伍する優れた臨床研究者を育成できるはずがありません。その意味で、この臨床研究フェローシップは、これまで日本に存在しなかった画期的な制度であると自負しております。幸い、福島県立医科大学理事会に当センターのビジョン、フェローシップの趣旨や社会的意義をお認めいただき、福島県議会で予算化の承認を受けました。募集開始後、予想外の反応があり、1年間で8名の素晴らしい医師達が参加を決定し、その後も毎年数名の医師が参加を決定、真剣に検討しておられることは、うれしい驚きでした。着任したフェローは健康長寿事業の計画を進め、同時に診療支援を開始しております。

Awayのプロジェクトでこそ人は鍛えられる、そして「辺境」は中心を変える

私は、10年ほど前から、京都大学において、そして学外において、臨床研究人材育成のささやかな試みを行ってきました。何事も新しいことをする時には、様々な困難にぶつかります。私の試みも例外ではありませんでした。しかしそのような困難があったからこそ、このプログラムや私自身が学び、成長する事が出来ました。何より、その過程で新しい価値を共有する仲間を得ることができました。同志がいるということほど心強いものはありません。そして、石の上にも7年(3年では短すぎます)、そうだいたい7年間で一つのジェネレーションを作ることを知りました。私の「心の恩師」であるThomas Inui先生(前ハーバード大学医科大学教授、現在インディアナ大学副医学部長)は、意外にも学外の教育プログラムの方に着目され、彼の監修する書籍の一章に執筆を指示されました。お陰でこの学びと成長のプロセスを「小さな物語」としてまとめることができました。Inui先生は、私がやって来た事は全て「辺境にいる者の作業」である、「しかし辺境しか、中心を変える事ができない」とも言われました。(詳細はwww.healthcare-epikyoto-u.jp)この福島県立医科大学臨床研究イノベーションセンターも、誰にも知られていない、まさに「辺境」の、そうAwayのプロジェクトともいえましょうか?

未来のフェローの皆様へ ― 「小さな物語」の登場人物になりませんか?

この拙い文章を読んで下さったあなた、このセンターに来てみませんか?「人生は短い」と良く言います。しかし、今や人生80年時代となり、医師には定年がないこともあり、人生の50年以上を医師として過ごす人も今後ふえて行く事でしょう。そのほんの20分の1の時間を我々と一緒に過ごしてみませんか?あなたの人生の長い旅の中で、このセンターに途中乗車し、小さな旅をしてみませんか?途中下車ももちろんありです。小さなリスクを取るだけで、大きな転機となるかもしれません。新しい価値を我々と共有し、「小さな物語」を我々と一緒に紡ぎ、その登場人物となってみませんか?