臨床研究イノベーションセンター センター長よりご挨拶

福島県立医科大学 副学長(医師確保・健康長寿担当)
京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻医療疫学分野 教授 福原 俊一
臨床研究イノベーションセンター センター長 福原 俊一
撮影:直江竜也

臨床研究イノベーションセンター:新しい時代に求められる新しい研究と人材育成の拠点

当センターは、1.医師不足で困窮する福島県の医療支援、2.福島県民の健康長寿を達成するためにデータベースを活用した研究、3.臨床研究医育成、を活動の3本柱として、2013年春に発足し、以来、活動してきました。

当センターは、上記の活動を可能にするために、「臨床研究フェローシップ」という制度を考案し、2013年から実施してまいりました。これは、心と腕のある県外の若手医師に福島に来ていただき、常勤教員として県民医療の支援をしていただくと同時に、充分な学習と研究時間を確保された上で、健康長寿研究に従事し、未来の福島、日本の臨床研究を牽引するリーダーになっていただくことをめざしています。これまでの研究者育成は、基礎医学が中心で、無給の大学院生に授業料を払わせて学ばせる、臨床研究にいたっては学習機会さえなく診療の片手間にさせていました。これでは世界に伍する優れた臨床研究者を育成できるはずがありません。その意味で、この臨床研究フェローシップは、これまで日本に存在しなかった画期的な制度であると自負しております。幸い、福島県立医科大学理事会に当センターのビジョン、フェローシップの趣旨や社会的意義をお認めいただき、福島県議会で予算化の承認を受けました。募集開始後、予想外の反応があり、1年間で8名の素晴らしい医師達が参加し、その後も毎年数名の医師が参加を真剣に検討しておられることは、うれしい驚きでした。着任したフェローは健康長寿事業の計画を進め、同時に診療支援を開始しております。

Awayのプロジェクトでこそ人は鍛えられる、そして「辺境」は中心を変える

私は、2000年代前半より、京都大学および学外において、臨床研究人材育成のささやかな試みを行ってきました。何事も新しいことをする時には、様々な困難にぶつかります。私の試みも例外ではありませんでした。しかしそのような困難があったからこそ、このプログラムは進化し、私自身が学び、成長する事が出来ました。何より、その過程で新しい価値を共有する仲間を得ることができました。同志がいるということほど心強いものはありません。そして、石の上にも7年(3年では短すぎます)、そのくらいの期間で一つのジェネレーションを作ることが可能なことを経験しました。私のメンターの一人であるThomas Inui先生(前ハーバード大学医科大学教授)は、意外にも我々の学外の教育プログラムの方に着目され、彼の監修する書籍の一章に執筆を指示されました。お陰でこの学びと成長のプロセスを「小さな物語」としてまとめることができました。Inui先生は、私がやって来た事は全て「辺境にいる者の作業」である、「しかし辺境しか、中心を変える事ができない」とも言われました。(詳細はwww.healthcare-epikyoto-u.jp)この福島県立医科大学臨床研究イノベーションセンターも、当初誰にもその価値を認められなかった、まさに「辺境」の、そうAwayのプロジェクトともいえましょうか?

未来のフェローの皆様へ ― 「小さな物語」の登場人物になりませんか?

この拙い文章を読んで下さったあなた、このセンターに来てみませんか?「人生は短い」と良く言います。しかし、今や人生100年時代となり、医師には定年がないこともあり、人生の50年以上を医師として過ごす人も今後ふえて行く事でしょう。そのほんの20分の1の時間を我々と一緒に過ごしてみませんか?あなたの人生の長い旅の中で、このセンターに途中乗車し、小さな旅をしてみませんか?途中下車ももちろんありです。小さなリスクを取るだけで、大きな転機となるかもしれません。新しい価値を我々と共有し、「小さな物語」を我々と一緒に紡ぎ、その登場人物となってみませんか?

臨床研究イノベーションセンター 副センター長よりご挨拶

福島県立医科大学附属病院 総合内科 教授
濱口 杉大
福島県立医科大学附属病院 総合内科 教授 濱口 杉大

臨床研究を勉強したい臨床医のための豊富なリソースをもった福島の環境とは

臨床医は患者の問題点に対して解決策を考え、これまで積み上げられた知識と経験を駆使し、必要に応じて教科書、文献、あるいは他の医師からの意見などを取り入れ、問題の解決を試みる、ということを日々おこなっております。すでに経験済みでよくわかっている問題についてはスムーズに解決することができますが、臨床の問題は多様で複雑なことが多く、医師はある程度の不確かさを覚悟しながらそれを解決すべく日々臨床をおこなっているのではないでしょうか。つまり臨床医は自分で自覚があるなしにかかわらず、すでに「分からないことを解決する」という使命を担っている研究者でもあるのです。私は一生臨床だけでよい、と考えている医師も、患者の問題解決に真剣に取り組み悩んでいるのであれば、すでに優秀な臨床研究者候補であるといってもいいでしょう。

しかしながら実際に臨床研究を実践するには独学では限界があります。系統的な学習できる機会、定期的に相談できるメンター、協力し励ましあう仲間、臨床をおこないながらも臨床研究に集中できるプロテクトされた時間、資金、フィールドやデータベースなどの研究実践環境がそろってこそ、質の高い臨床研究のトレーニングが可能となります。福島医科大学臨床研究イノベーションセンターでは、これらのリソースをすべてそろえ、臨床研究を勉強したい臨床医にとってこの上ない環境をそろえております。これに加えて大学からの安定した収入とポスト(助教ないし助手)、さらに有給での外部研修など、医師個人に対する待遇も手厚くなっております。

全国でもまれなこの臨床医のための質の高い臨床研究トレーニングによって臨床医としてのものの考え方もかなり広がります。

シニアフェロー制度を利用してさらに臨床研究を深めよう

臨床研究イノベーションセンターのフェローシップは原則3年間のプログラムです。しかし現在携わっている研究をさらに深める、あるいはフェローとして新たに加わった医師に対する研究指導などに興味をもつフェローに対して、2019年4月からさらに最長3年間までフェローの期間を延長できるシニアフェロー制度が誕生しました。

臨床研究の初心者は羽ばたく前の助走期間が長い場合があり、また経験者であっても研究自体が大きなものである場合、3年間で論文化まで到達することが困難な場合もあります。その場合、たとえ3年を過ぎてしまってもシニアフェローとして残留することが可能です。シニアフェローは初心者に対する教育もおこない、臨床でいういわば屋根瓦式のトレーニング環境が構築されます。

臨床研究をしたいがどのようにしたらよいか分からない、ある程度経験があるが我流でおこなっていた、というような臨床医の皆様、この徹底的に練られた「臨床医のための臨床研究トレーニング環境」にぜひ飛び込んできてください!